【セル】

 これはフクシュウだ。アイツらからもらった体をメチャクチャに汚すためにアタシは男と寝る。高校をサボって四日目、今日もアタシは相手の男を探していた。未成年とヤりたいケダモノなんてそこらにごまんと転がっている。彼らとアクセスするのはいたって簡単、出会い系に遠回しな年齢とプロフを書くだけでいい。「○校生です。お金に困っています」。これぐらいのメッセージでもケータイには腐るほど腐ったメールがあふれ返る。若さがシンプルなステイタスであることを若いアタシはよくわかっているつもりだ。

 安宿がわりのネットカフェでネットの掲示板をチェックする。毎日同じページを使って足がつくのがイヤだったので、それらしいキーワードでググって新しい仕事場を見つけた。タイトル画像の横でピコピコ動いているウサギのイラストが可愛かったから、今日はここにすることに決める。

 気のない、そのくせとびっきりの愛嬌交じりなコメントをタイプしながら、昨日の男のことを考えた。クソまじめそうな四十代のオジサンは五枚でアタシを買おうとした。しらじらしく「アタシ処女なんですー」とウソをついたら二枚増えた。ナカで出させてあげたら三枚増えた。一晩で十万円、エンコーって便利だなぁと思う。セックスは楽しいし知らない男の精液でお腹の奥まで汚くなるのが最高にキモチ良かった。アイツらは「どうせいつもの家出だろう」くらいにしか考えていないはずだ。娘が妊娠して帰ってきたらさぞショックを受けるに違いない。ザマアみろ。

 ピンク色の送信ボタンを押したあと、リクライニングシートを倒して寝転がった。大量生産っぽい安物のイスは少し固くてごわごわしている。どうせ夜はホテルでぐっすりだ、別に気にはならない。ケータイの着信ランプがやかましく明滅する。受信が多すぎてひっきりなしの着メロはマナーモードで殺していた。うすぎたない欲望がメールボックスにたっぷりたまっていくのを尻目に、高い天井をぼんやり眺めた。

 ヨッちゃんに借りっぱなしのCDや赤点ばっかりのテスト、グロテスクなペニスや両親の離婚問題のことなんかを考えてるうちにいろいろどうでも良くなってうつらうつらする。眠るように死にたいな。天国でも地獄でもいいからさっさとどこかに行きたいな。ここではないどこかを望むけどアタシの体はカッチリこの世界に食い込んでいてどこにも行けないことをほのめかしている。死のうかな死ぬのこわいな。うつらうつら。鬱ら鬱ら。あははくだんねーでやんの死ねバーカとかツッこんだのを最後に意識おちた。おっと寝オチ。ケータイのデジタル時計が一時間進んでいて、未読メールは三十通届いている。ぴったり三十通、『トークン・ワイプ』のバラエティクッキーとおんなじ枚数でちょっとうれしいなーと思っていたら一枚増えて台無しだ。とりあえずカキコを削除、今日のお相手をチェックチェック。

「『溜まってます』? 知んないよ、カッテに溜めてろっての。『バツイチです』? でっていう。『中年のテクニックで』かあ。だいたいテクニックがどうのとかって言いたがるのは下手なヒトなんだよね。おとといのヒトとかさ」

 無個性な、ヤり目的しか見えないサルメールを流し読む。バナナばっかり突き出しても女の子は釣れないよおサルさんたち。フトコロの広さを見せてくれないとね。例えば「百万まで出せます」とかさ。アタシバッカでー、どこの世界にポンと百万投げてくれる社長がいるんだってーの。

「……『五百万円まで出せます』?」

 メールを繰る手が止まった。五百円の間違いだと思って何度か見直したけどやっぱり万の字は消えなかった。スッゲ、高々パンピーの女子高生にゴヒャクマンエン。ギャグにしたってもっと現実的な数字を書けばいいのに。てゆうかギャグでしょこれ。華麗にスルーすべきところを何となくシンケンに読んでしまう。

「『お金が目的でしたら他の方より多く差し上げます。限度額五百万円まで出せます。175/57/26 銀行員』。細いなぁ。そしてギンコーのヒトか。差し上げますじゃなくて貸してあげますだったらヘコむね。ジツは闇金のヒトだったりして。これは事件の匂いだよ奥さん! トリックは全員ジサツ! 清涼in流水!」

 自分で言って自分でウけて、ひとしきり腹を抱えたところで残りのメールを片付ける。半端ないつまらなさだった。メール削除、削除削除サクジョサクジョ。結局ゴヒャクマンエンのヒトが残った。ハムのヒトみたいでいい感じだ、ゴヒャクマンエンのヒト。背もまぁ高い方だしスリムなのが気に入った。二日連続で中年のぷにぷにしたお腹を見て大好きなプッチンプリンをゲーしそうになったアタシだもの、肉ばっかりじゃなくて野菜食べたいよねヤサイ。早速返信してみる。ゴヒャクMANこと要さんに。これなんて読むんだろ、ヨウさん? レバーにたっぷり含まれてるアレかってソレ葉酸。

『お返事ありがとうございます! アキ、ホントは中学生なんですケドだいじょぶですかあ? 要さんさえよかったら今スグ会いたいですー』

 学年ひとつ分、年齢ふたつ分偽ってみるのがテクニック。ロリコンはこれでイッパツだ。犯罪レベルといっしょにお金の額も上がってアタシ大満足相手大満足。友達にからかわれるくらいローティーン気味のアタシにとってはちょろいことである。ちなみにアキはアタシのハンドル。暦の上では秋だしね。本名はいっこ先の季節だけど。ついでに極寒だけど。

 要さんはどんな面白いメールをしてくれるのかな。すぐ反応できるようにマナーを解除した。さてと戦闘準備戦闘準備。

 化粧を直しているうちに二通目が届いた。要さんはなかなか律儀で好印象だ。きっちり眉毛を書いてからケータイを開く。

『先ほど仕事が明けたので今からでも構いませんよ。駅前のトークン・ワイプってご存知ですか? そこで待ち合わせしたいです』

 ちうがくせいについて特に触れられていなくて軽くヘコむ。だけどお気に入りの店名が出てきたから許す。トークン・ワイプは女の子に大人気絶賛中のスイーツショップだ。小ぢんまりしたお店にはアンティークとお菓子の香りが立ち込め、電車帰りの学生やらOLをラフレシアみたいに惹きつけて止まない。ん、ラフレシアって食虫植物だったっけ? まいっか。

『モチロンわかりますよー。アタシあそこのクッキーが大好きです。今いる場所から十分くらいで着くと思います。チェックのワンピ着てるちっこい女でーす』

 特定の目印は出さない。危険人物ぽかったら無視して逃げるためだ。売春なんてしてるけど一応ジコボーエーはしてるつもり。

 待ち合わせ場所も決まったし、バッグに荷物を詰めていく。化粧道具と替えの服、お財布と飲みかけのドクターペッパーでバッグは埋まる。アタシの荷物なんてせいぜいこんなもんだ。身軽でいたいから荷物はほんのちょっとでいい。服が結構かさばってるせいでバッグ膨らんでるけどさ。

 ケータイがまた鳴る。AIKOの『あした』は聞き流し一択のメロディだ。アイツら専用着メロにしてるしアタシAIKO嫌いだし。AIKOをぶった切ってGO!GO!7188の『ジェットにんぢん』が鳴ったのでケータイを取った。でもジッタリン・ジンは聞いたことがない。

『私も職場が側なのでお待たせしないようにしますね。バラエティクッキーのリボンを小指に巻いて……格好はスーツです』

 度胸があるヒトだなーと思った。駅前の銀行って言ったらふたつしかない。そして二十時のトークン・ワイプは女子高生やらOLやらでしっちゃかめっちゃかだ。さすがだぞゴヒャクマン、リボン小指に女性の晒しもの覚悟だぞゴヒャクマン。うっかり三十分くらい遅刻したいぞゴヒャクマン。そこんとこアタシは誠実だし、さっさとネカフェをチェックアウトして表へ出た。

 風はだいぶ寒くなってきた。直に着たワンピは少々頼りなく心持ちヨれている。ヨっちゃんちでアイロン借りようかな。CD返せって言われそうだしチィの家に行こうかな。そもそも実家に帰れっていう野暮いツッコミだけはナシでヨロシク。

 疲れた顔のオジサンと元気が取り柄のオニーチャンを見てると、若さって幻想かなーとフケ思考に耽ってしまう。みんな年取ってサラリーマンだのOLだのになって結婚したり子供できたり事故ったり絶望したりしながらだらだら生きて定年して死ぬ。もしくはもっと早く死ぬ。あーやだやだ、マイナスシンキンやだやだ。背筋をピンと伸ばしてアタシはエセ都会の街並みを歩む。

 ジャス十分で到着したら、お店と若干ズレたところでゴヒャクマン(仮)が佇んでいた。やっぱり羞恥プレイは無理だったのかなゴヒャクマン。ちゃんと指リボンしてて可愛いぞゴヒャクマン。括ったポニテは会社的にセーフなのかなと思いつつ、メガネ美人のゴヒャクマンにアタシは近づいていった。おいおいやばいよ超美形だよゴヒャクマン。抱かれたい男ナンバーなんたらにランクインしていいよゴヒャクマン。すっと伸びた長身がセクシーで、指は繊細な動きをしてくれそうだった。アタシのテンション激増。

「ヨウサンですかぁ?」

 舌っ足らずに尋ねたアタシをカレは見つめた。レンズの奥の瞳は驚きとそれ以外の何かフクザツな感情で溢れている。アイシャドーの入れ方上手だなゴヒャクマン。ルージュもしつこくなくて可憐だなゴヒャクマン。バニラの香水が香るぞゴヒャクマン。

 ゴヒャクレディじゃん!

「あの、カナメです……必要の要って書いて、カナメ」

 くちどけバツグンのバニラアイスみたいに、澄んだ声で訂正する要<カナメ>お姉さんだ。人違いの可能性が絶滅だ。

「おんなのひと、ですよねぇ?」

「はい」

 要お姉さんは素直にうなずく。ぱっと見エリートOLっぽいのにおどおどしてる様子がギャップ大。キレイ系の顔だけどなんとなく可愛らしかった。

 気マズイ沈黙が秒針間隔でチクタク刻まれる感覚。アタシの脳みそがフル稼働してものすごい勢いでゲンジョーハアク。アタシ身売りするヒト、お姉さん買うヒト。女同士、レズビアン。こんな美人で男にフジユーしそうにないヒトでもそういう趣味があるんだ。女子校通いだけどゲンブツ見たことがないアタシとしては驚きと桃の樹と二十世紀と世紀末覇王がいっぺんに訪れてパニくる。

「えっと、クッキー食べますか?」

 リボンを解いた包みが差し出される。トークン・ワイプのバラエティクッキー三十枚、その上に諭吉がコレ何枚!? 札束の最初一枚最後一枚が本物ですあああと偽物ですよドンマイとかそんな次元じゃないよ! 雑多に詰められた紙幣は全部現ナマっぽい。アタシお札鑑定眼とかゼンゼンないんで真に受けてビビる。いつドッキリって言ってくれますかお姉さん。

「全部で三十万入ってます。わたし本気です。それとも……女相手は駄目でしょうか」

 要お姉さんの目はマジだった。ホントに五百万でも出してくれそうな雰囲気だった。キョドり気味の手を真っすぐ伸ばしてアタシは山吹色のお菓子を手にする。諭吉と少々にらめっこ。学問をススメるまなざしだ。アタシ内部でホンモノ認定。

 次に要お姉さんとにらめっこしようとしたらあっちむいてホイになった。うつむき加減でそわそわするお姉さんはそこはかとないイイヒトっぽさを醸し出している。あと美人だ。ここ重要だテストに出るぞー。こういうキレイなヒトとだったら体験してもいいかなってうっかり思っているアタシがいる。

 それに――アタシが男とでも女とでも寝るようなインバイの方が、きっとアイツらは悲しむ。提示金額よりお姉さんの美貌より、その動機がアタシの背中を叩いた。

 アタシは要お姉さんの腕に手を絡ませた。わー細っそー手ー白ーとか感動してるアタシを緊張した目で見るカノジョ。年上を手玉に取るのも――ちょっといいな。

「ホテル行こっか」

 エンコーデビュー半月のくせして百戦錬磨のフリ、ヨユーシャクシャクでお姉さんにささやく。あ、赤くなった! 要お姉さんは色が薄いから簡単に紅潮したのがわかる。お姉さんカワイー。アタシが男だったらほっとかないね。女だけどほっとかない状況になってるのはナイショだ。

「できれば……その、わたしのマンションの方が」

 控え目におっしゃるお姉さん。自室招待はほのかに死亡フラグの匂いがする。巷をにぎわすエンコー事件の一個になるヨカンがアタシに全力でストップをかけようとする。ごめんヨカン、若さと無謀はイーコール。アタシはなけなしの胸をお姉さんの二の腕へ押し付け、悪女を気取る。

「アタシは別におねーさんのおうちでもいーよ?」

 要お姉さんのくちびるが恥ずかしげに結ばれる。お姉さんはゼッタイ受けだと思う。こういうのを確かレズ用語でネコって言うんだっけ。アタシは攻めだから……えーっと、イヌ? よくわかんない。

「近くにありますから、案内しますね」

 荷物持ちますよ。さりげなくアタシの手荷物を持ってくれるカノジョがどうしても悪人に思えなくて、だからアタシはいっそう腕をタイトに抱いた。ついでに緩く巻かれた小指のリボンを解き、ワンピのポケットへと押し込む。

 アタシにひっつかれて要お姉さんは歩きづらそうだ。でもイヤな顔はしてない。アタシは調子に乗ってますます密着する。周りが見たらどう思うかな。あ、女の子同士って便利だ! きっとアタシたちは仲の良い姉妹くらいにしか思われない。ホモよりレズの方がお得なんだなーって体感する。

 だんまりはムードを損なうので、アタシからいくつか質問をした。トークン・ワイプは行きつけなのか、どのメニューが好きか、新作のチョコシュー試した? etc.etc. 核心をつかない世間話は要お姉さんを微笑ませた。すごい笑顔まで美人だ。こんなお姉ちゃんがいたらピノキオなんてメじゃない鼻高々だなぁと一人っ子のアタシは考える。

「限定十五個のチーズスフレを買うために、有給使ったこともあるんですよ。おいしかったのに一週間で終了なのが勿体なくて、友達と復活して欲しいよねって話したり……あ、着きました」

 お姉さんの住まいは高級感漂うマンションだった。エントランスでかっ! まるでホテルみたいなロビーを抜けて、お姉さんはフロントに寄る。何かのカードを見せたのは便宜上のことだろう、受付女性は「結構ですよ」と言って笑った。

「妹さんですか? 要さんと違って小さい方ですね……っと、すみません」

 慌てて口をふさぐのは要お姉さんが大きい、あるいはアタシが小さいことを指摘して不機嫌になられることを心配したのだろうか。アタシは背が低いの気にしてないけど、要お姉さんはどうかな。カノジョの気持ちを察する前に妙な違和感に気づく。

 お姉さん、めっちゃ本名じゃん。

「はい。今日は遊びに来てくれたので、ゆっくりしていってもらおうと思いまして」

「なるほど。ごゆっくりどうぞ」

 仲良く手を繋いだアタシたちを疑うこともせず、受付はひとつ頭を下げた。こういうマンションって居住者以外が泊まるのオッケーなのかな。身内だったらいいのかな。まあ身内じゃない上にカンペキ他人なんだけどさ。お姉さんのしたたかさも大したものだよね。

 エレベータに入ったお姉さんは十二階のボタンを押す。キャパ充分のエレベータはアタシたちしか乗っていない。少しイタズラ心が芽生えたアタシは、お姉さんの腰に腕を回した。

「『妹さん』だって。そんな年下の女の子と……おねーさんはえっちしちゃうんだよね」

 肌はユキウサギの体の白から真っ赤なおめめの赤に変わる。要お姉さんのリアクションは「押すなよ! 絶対押すなよ!」と言って行動をあおる芸人さんといっしょだ。本人にその気がなくても、もっといじめたくなってしまう。

「住んでるとこはいいとこで、お金いっぱい持ってて……女の子とっかえひっかえして遊んでるの? えっちなおねーさん……」

 スレンダーなお尻を撫でまわす。ふるふる震えてるお姉さんがとっても可愛い。アタシ言葉責めの才能がある! 今悟った! スーツスカートだったらもっと大胆に触れるのになって思いながらズボンをなでなでする。

「取っかえ引っかえだなんて……そんなこと、んっ、してません。あなたが……アキさんが初めてなんです」

 要お姉さんの告白で手を止めかけるけど、そこはがんばれマイハンド。動揺のそぶりを見せないように注意しつつまさぐり続ける。

「そうなんだ。じゃあ要おねーさんの女の子バージン、アタシがもらってあげるね」

 アタシもレズ初体験だけど、経験者気取った方が安心かなーってことでウソエイトオーオー。荷物とアタシで両手ふさがりのお姉さんは成すがままでキュウリがお父さんだ。ズボンの股布をきゅっと押し込むと、お姉さんの肩がビクついた。

「このままここでシてあげようかなー」

「や……お願い、お部屋まで待って……待ってください」

 瞳うるうるでお姉さんが頼む。頭の中でトータス松本が「妹のやることなすこと ドキドキもんですか」なんて替え歌を歌ってる。かわいいひと、かわいいひと。

「……ザンネン。もう着いちゃった」

 エレベータが開くより先に体を離した。マダムって感じのオバサンが入れ替わりで乗り込み要お姉さんは笑顔で会釈する。

「『お部屋まで待って』なら、お部屋の中ではいろんなことしてもいいってことだよね?」

 エレベータの閉口が終わってアタシは開口する。赤面したお姉さんはなんにも言えないでいる。小さな歩幅は4号室の前でゼロになった。つまりお姉さんのお部屋だ。さっきのカードは鍵だったようで、扉横のスリットに通すと解除音が鳴った。おおハイテク。

 通された部屋はそのまんまホテルだった。宮崎県知事よりそのまんまだった。広いとか清潔だとかそういう意味ではなくて――物がない。キッチンはともかくリヴィングなんかは酷いアリサマだった。備え付けらしき机やらテレビやらを除くと私物は本棚しかなさそうだ。その本棚にはアタシごときでは理解不能なタイトルの本が並んでいる。殺風景ここに極まれり。

「シャワー、先に浴びますか?」

 荷物を置いたお姉さんが尋ねる。アタシは化粧が剥げるのを嫌って首を振った。代わりにバスルームへ向かおうとするカノジョを袖引きし、ベッドルームを見せるよう促す。大人しくカノジョは従った。

 細い要お姉さんが寝るには広すぎるダブルベッド。サイドボードにある照明が薄い光を放っている。そしてやっぱり寝室も良く言えばシック、悪く言えば気の沈む内装<シック>だった。

「あの、わたしシャワーを」

「ダメ」

 切り捨て、強引にお姉さんをベッドへと押し倒した。シャワー禁止に大した意味はない。その方がカノジョにとって恥ずかしいかなと思っただけだ。案の定要お姉さんは戸惑っている様子を見せる。反抗しないものだから、プチプチボタンを外してしまった。

「おねーさんの甘い匂いが落ちちゃうもん。香水、いい匂いだよね」

「ありがとうございます……でも、そうじゃなくて」

「おねーさん? ワガママ言う子はキライになるよ」

 一言でお姉さんは口を閉ざした。世の男性がうらやむこと間違いなしの従順ぶりだ。なるほど、だからネコって言うのかと一人で納得する。

「うん、いい子……可愛いよおねーさん」

 口八丁手八丁、アタシはお姉さんの服を脱がせていく。シャツをはだけさせベルトを抜き、OLのOを取り除く。ん、銀行ってオフィス扱い? マヌケな疑問には誰も答えてくれない。とにかくお姉さんは下着姿になった。薄紫の上下が魅惑的な体を優しくくるんでいる。

「うわー、ウエストほそーい! おへそも縦長でかっこいいなぁ」

「あ、んん」

 ひとさし指でおへそをなぞると、お姉さんは体をよじった。アタシは軽くカノジョへのしかかって押さえつける。体重は×キロ差だし身長は30センチ差だしであんまり効果ないけれど、お姉さんは固まった。

 指を上らせる。なめらかなお腹を伝った先にはボリュームの少ないふくらみがあった。カノジョのスリーサイズはボンキュボンではなくキュキュキュだ。ディスクジョッキーの気分になれる。

「胸ちっちゃいんだ。カップは?」

 フロントのホックを外す。お姉さんは小声でアルファベットのスタートを告げた。ブラの下に隠れていた乳房はアタシと大差ないマナイタである。

「態度もここのサイズも控え目なんだね。Aってアタシとおんなじだよー。おねーさんいくつだったっけ?」

「26……です」

 ハンドルに本名使うくらいだし、きっとホントの年齢だ。アタシ16だけどいつもどおりサバ読んだら14歳。干支一周分っていうのはイジメ材料としてぴったりかもしれない。

「14のアタシと胸の大きさがいっしょなのかー。アタシに追い抜かれちゃうよ? おねーさんのおっぱい……」

 喉が鳴ったのは具体的な年齢を出したからだろうか。それともひんにゅーなのを指摘したせいかな。じっくり胸のリンカクを這いながらカノジョの胸を観察する。てっぺんのサクランボは触ってもいないのに張りつめて、ちゃんとおっぱいなんだぞって主張していた。

「乳首も色うすいね。おねーさんの体って真っ白で……アコガレちゃうな……」

 くにっとさきっぽを折り曲げる。要お姉さんはくぐもった声でうめいた。右と左をじゅんばんこにつつくと体じゅうが色ばんでくる。白い花びらにかすかな朱を滲ませたソメイヨシノ。だけど花よりきっとお姉さんの方がキレイだ。

「おねーさんのここ、もうこりこりになってる。ビンカンさんなんだね。えっちなおねーさんにぴったりの、やらしー乳首」

「やぁ……いじわる、言わないでください……」

 アタシを切なげに見上げるお姉さん。ぞくぞくするようなイジメてオーラはアタシにアルコールみたいなものを注ぐ。チューハイしか飲めないアタシはソッコーで酔っぱらう。

「えっちなのはホントでしょ? 中学生のオンナノコにエンコーさせてる、いけないおねーさんなんだから。ほら、『中学生をお金で買いました』って言ってごらん?」

 社会のモラルとか貞操観念とかそういったものを動員してお姉さんを嬲る。カノジョの噤んだくちびると濡れた瞳が言えないキモチを訴えかける。言いやすくなるように、アタシに屈したくなるように鎖骨を吸った。

「ん……くぅん」

 肩の窪みを唾まみれにして、お次は反らされた喉元を咥える。トムソンガゼルに噛みつくライオンはこんな心境なのかな。細くてもろくて噛みちぎりたい。

「い、たぁ……い。乱暴にしないで。やさしくして……」

 つい歯を立てたライオンへガゼルの悲鳴が許しを乞う。まぁアタシライオンじゃないしお姉さんガゼルじゃないし。肉食でも草食でもなくてお砂糖が主食のアタシは、肌をちゅうちゅう吸いこんで甘い鳴き声を楽しむ。

「優しくして欲しかったら、アタシの言うこと聞いて?」

 舌はしゃべったあと顎までを舐め上げた。目じりの下がった瞳が見ている。前髪を払い眼鏡を取って、ふたりの間をみだらな空気だけの状態にした。お姉さんのほっぺはアタシの掌に吸い付く。アタシは片手をほほに置き、もう一方で乳首を転がした。

「おねーさんとアタシのカンケイ、姉妹なんかじゃないでしょ。上手に説明できたらいっぱいキモチよくしてあげるんだけどな。おへその下のお豆さんも……こんなふうにころころされたくない?」

 少なくともアタシはしたい。要お姉さんのイクところを見る初めての女の子になりたい。やば、レズってなんかハマりそう。女の子を相手にするのは結構クセになる。お姉さんはお姉さんでハマっちゃってるのか、貝の口が茹でられ茹でられようやく開いた。

「わたし……愛して、欲しかったから。お金で歳……下の……女の子を買いました。たくさんえっちして欲しくて、好きになって欲しくて……これでいいですか? アキさん、アキさぁん」

 ぶっちゃけた話、おねだりを強要させたのは失敗だった。要お姉さんが可愛くってしかたがない。アタシはワンピをくしゃくしゃにしてお姉さんを抱き締める。イッコだけ訂正して欲しいことがあったので、独りごとみたいに呟いた。

「……マフユ」

「え?」

 聞こえなかったのではなく、たぶん名詞の意味がわからなかったんだろう。正解は名刺。そこのところをカノジョにはっきり教える。

「アタシのナマエ。ハンドルに本名使うのなんて要おねーさんくらいだよ、もう。だから……アタシのこと、マフユって呼んで」

「真冬――さん? あ、それで秋さんなんですね」

 柔らかい微笑みは春の日差しに似ている。お姉さんの名前が小春とかだったら良かったなーってアタシは軽く色ボケする。すご! アタシベタ惚れしてるじゃん! 『援助交際から始まる恋もある』。このキャッチフレーズはキてるね、相当キてる。警視庁の前で堂々と叫びたいね愛を! 『ポリスの前面でエンコーを叫ぶ』。ダメアウト確実にタイホ。

「真冬さん……かわいいお名前ですね。ちっちゃくて、雪の妖精さんみたい。素敵……」

 やめてお姉さんこれどこにでもいるフツーの名前だから! アタシがフロストジャイアント(フロストスモール?)とかだったらそのセリフで溶けてるから! わかった! このお姉さんは天然だ! 気付くのオセェ!

 うーん、参ったなぁ。アタシこのひとのこと好きになっちゃってる。えっちなこともしたいけどおしゃべりしたりお茶したりもしたい。ゴヒャクマンとかいらないから友達になりたい。

「ね、ねえ要おねーさん。上手にえっちできたら、その……アタシと付き合ってください!」

 友達以上恋人未満をすっ飛ばしていきなり告白するマイマウス。さっき「上手に説明できたら」とか抜かしてたのに何言ってんのこのネズミ! ネズミ張り切り過ぎ! 複数形はマイス! アタマの歯車がカラカラ回る。ネズミが走る車輪みたいにカラカラ。

 アタシの脳みそよか要お姉さんの表情の方が遙かにフクザツだ。脈ナシ? 唐突だった? 割り切りのカンケイゲンテイ?

「もちろんお金とかいらないよ! アタシただ、おねーさんといっしょにいたいの! お話とかしたくって」

「お金しか、ないんですよ?」

 空回るアタシをカノジョが止めた。冷たい、アタシの名前なんかよりずっと温度の低い声だった。恐る恐るカノジョを伺う。醒めた、急激に冷えた鉄の容貌だった。

「真冬さんがわたしを気に入ってくれたのは嬉しいです。わたしも真冬さんのこと……同性だけど、いい子だなって思います。恋人になれるならそうなりたい。でも、わたしよりお金のことを好きになってください。わたしに、買われてください」

 回し車が回転し続けるネズミ小屋。「飼われてください」は遅れて正しい言葉に変わった。アタシは初めてこのヒトを怖いと思った。要お姉さんのアタシを抱く手が、捕まえる手のように感じられる。

 怯えて震えるのはアタシのはずなのに、小刻みに揺れるのはカノジョの体だ。あなたのことが必要ですって、泣くみたいに震えていた。

「五百万円じゃ足りませんか? 一千万でも構わないんですよ。お金、お金だけならいっぱいあるんです。他に何もないけど、わたし、お金だけの女だけど……っ」

 お姉さんはホントに泣き始める。直感的に、同じ匂いがする人間のアタシは理解した。要お姉さんは――誰かに傷つけられたんだ。

「わたしから、う、んっ。離れていか、ないでください。嫌いにならないでっ」

 アタシは別に嫌われたって良かった。勉強苦手だしそんな可愛い方でもないし、授業すぐ寝るし寝相悪いしCD返すの良く忘れるしエンコーとかするし。でも最後のは、アンタたちが離れていくから――アタシに相談もしないで勝手に話進めて、娘のアタシのタチバってのも考えろよ! アンタたちがそんなだからアタシはグレるんだ! アタシはガキだけど、ガキだから父さんと母さんにはずっといっしょで幸せでいて欲しくて――っ!

 おお、怒りが一周して冷静になった。アタシすごくない? この急展開な波を華麗に乗りこなす、ピカチューとかジョニーとかそこら辺のサーファーレベルだ。ごめん結構胸モヤモヤ。お姉さんの涙ぽろぽろ。年上なんだからもっとヨユー持って欲しいなヨユー。けどボセーホンノーとかいう奴がチクチク痛むから、アタシはお姉さん登りをする。アタシのたぐいまれなひんぬーを顔に押し付けて、涙とか鼻水とか、あ、鼻水はちょっとイヤだけどもうこの際しゃーないやーってことでワンピには犠牲になってもらう。要お姉さんの髪はいい匂いがする。アタシは指で髪の毛を梳いて、カノジョの頭をいい子いい子してあげた。

「お金なんかより要が欲しいよ。悲しいことばっかり言わないでよ。だって要、素敵なヒトじゃない」

 アタシの口説きテクで何とかなれ。このさりげない呼び捨てと美乳(微乳って言うな)とああもうとにかく俺様の美技に酔いな! アタシの中に降りて来い跡部様!

 跡部パワーかどうか知んないけど、無事要お姉さんは涙を止めた。ごめんよマイワンピと思いつつスカートでお顔ふきふき。そのあとキス。クリスマスに売れ残ったケーキくらい大盤振る舞いでキスキスキス。BGMは電気グルーヴの『Shangri-la』。夢じゃないけどキスキスキス、キスキスキス、いつでもいつまでもーだ要お姉さん! 泣く暇なんてあげないもんね! 年下の魅力でめろめろにしてあげるんだーとかなんとか息巻いて。アタシはお姉さんと夜明かしでえっちした。

■ ■ ■

 後日談が始まるよ! チャゲアスの『YAH YAH YAH』がフィナーレを飾る。今からそいつを、これからそいつを、殴りに行こうか!

 アタシはまず要お姉さんの元カレを殴りに行った。アタシのチャーミイさで誘惑したあと、「未成年とこーゆうことするのってイケないんじゃないですかぁ?」って自分から仕掛けたくせに脅迫。しかも手でシてあげただけ。オニーサンがすこぶる不憫だったけどアタシの一番は要お姉さんなので瞼クローズする。そして泣きごとと共に「あいつが金しかない女だったら、他の女は何もねぇよ。反りが合わねぇから最後にダセぇ捨てゼリフ吐いちまってな。そんな気にしてたなんて思わねぇっつうの。これだから世間知らずの若社長は」なる証言を入手した。反省してなかったのでスネキックアンドラン。さようなら過去のヒト。

 次にうちのバカ親を殴りに行った。あ、父さんに関しては本気で殴った。アンタ母さんと永遠の愛を誓ったんじゃないのかよせめて墓に行くまで愛し続けろよでないとアタシ泣くぞウワーンってうっかり泣いたら父さん唖然顔。母さんとアタシと三人で家族会議に突入し、なんだかんだでふたりともヨリを戻したがっていたことが判明した。元々連中はバカップルだしトントン拍子で離婚問題は解決する。アタシがカスガイの中のカスガイ、キングオブカスガイになれたのは嬉しいんだけど、このヒトたちアタシが女のヒトと付き合ってるって知ったらまた離婚とか言い始めそうでちょっと怖い。

 最後に要お姉さんを殴りに行った。訂正、嬲りに行った(最低だ)。だってお姉さんアタシに一個ウソ付いたもん。良く考えればどこの世界に高級マンション在住で五百万だの一千万だのバンバン言える26歳銀行員がいるんだっての。……実はいるのかな? 知んないけどさ。フラれ文句で自暴自棄になり、大枚はたいて慣れない出会い系に突入した挙句『間違えて』女の子を買った春日要<カスガカナメ>26歳社長。シャチョー。銀行員なんて嘘っぱちじゃん! 限定十五個のチーズスフレ、お姉さんは並ばなくても食べ放題じゃん! 原材料の時点で赤字確定の商品出すとかお姉さんアホじゃん! そりゃ一週間続いたことさえ奇跡だよ! お姉さんの苗字も営業してる会社のクッキーもお姉さん自身も全部大好きなアタシは、嬉しいことばっかりなのに「今度嘘ついたら……もうシてあげないよ?」なんて囁きつつお姉さんイジメ。お姉さんはアタシの腕の中でやんやんやん。もうお姉さんが可愛くって可愛くって、十代の若さをフル活用して気絶するくらい抱いてあげた。

 あと、嘘ついたバツとしてお姉さんの会社に永久就職させてもらった。ホントは単に求人中だったポストへ好意で置いてもらっただけですゴメンナサイ。

 仕事をばりばりこなす要お姉さんはとっても頼りになる大人の女性だ。社長室でふんぞりかえることもなく、自分で新メニューつくるくらいだからカノジョの体はいつも甘いバニラの匂いが漂っている。そんなお姉さんの肌はクッキーよりずっと甘い。

 早足でまとめた大団円は造り物っぽさバツグンでうさんくさい。でも別にいーんじゃない? 明け透けなハッピーを手に入れたって誰も怒んないでしょ。人間は幸せになるための細胞<セル>が用意されてるんだよって先輩が教えてくれた。あと女の子同士でするときのシてあげる役をタチって言うことも教わった。タチって何? 良くわかんないけどケータイを閉じる。会社に出勤してから聞こうと思う。隣で熟睡してるお姉さんをベロチューで起こして舌のさきっぽ噛まれて超悶絶。ああ真冬さん御免なさいってお姉さんめっちゃ謝る。ジト目でニラむアタシはお返しに耳たぶ甘噛み攻撃を仕掛けてそのままふたりでイチャイチャ。してる暇もなくて通勤の準備を始める。

 今日はトークン・ワイプで、月に一度のハッピーセール。

TOPへ
NOVELへ inserted by FC2 system